令和5年度税制改正のうち資産課税については、相続・贈与の一体課税に係る改正がありました。ここでは、相続時精算課税及び生前贈与加算の改正について解説します。
相続時精算課税の改正
改正前の制度概要
相続時精算課税の制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
贈与税の額は、贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(限度額:2,500万円)を控除した後の金額に、一律20パーセントの税率を乗じて算出します。
なお、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することはできません。
基礎控除額110万円の追加等の改正
現行の特別控除額2,500万円とは別途、110万円(贈与の各年ごと)の基礎控除を創設しています。
なお、特定贈与者が死亡した場合の相続税の課税価額に加算される金額は上記の控除(基礎控除110万円)をした後の残額となります。
また、相続時精算課税で贈与を受けた土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合に相続時にその課税価格を再計算する見直しを行っています。
生前贈与加算の期間延長
改正前の生前贈与加算
相続、遺贈(遺言(ゆいごん)によって、財産を、相続人以外の者におくること)に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します。
また、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除されることになります。
改正の内容
暦年課税において贈与を受けた財産を相続財産に加算する期間を相続開始前3年間から7年間に延長し、延長した4年間に受けた贈与のうち総額100万円までは相続財産に加算しないこととしています。
改正の適用時期
新たな制度は、令和6年1月1日以後に受けた贈与、発生した災害により被害を受けた場合に適用されます。
改正を踏まえて
相続時精算課税は贈与時に特別控除額2,500万円が使用できるものの、相続発生時に生前贈与した金額が相続税の課税価格に加算されます。したがって節税効果はありませんでした。
改正後では相続時精算課税制度を利用した場合の基礎控除110万円については、相続時に生前贈与加算がされないため、生前贈与加算の対象外となり節税効果はあります。
ただし、暦年課税のような年数制限はなく相続時精算課税開始以後の全期間となります。
生前贈与加算の対象者は相続、遺贈(遺言(ゆいごん)によって、財産を、相続人以外の者におくること)に係る贈与によって財産を取得した人です。相続人であっても財産を相続しなければ対象外となることも踏まえ、財産の規模や税率等を踏まえて慎重に資産の移転(生前贈与等)を行うことが必要です。