新型コロナウイルス感染症の影響により経営が悪化し赤字決算となる企業が多くなると予想されます。今回は、赤字決算の場合に過年度(原則、前年度)に納付した法人税及び所得税額の還付を受けることができる繰戻し還付について解説します。
欠損金の繰戻し還付制度とは(法人)
資本金1億円以下の企業は、前年度黒字で今年度赤字の場合、前年度に納付した法人税の一部還付を受けることができます。
還付金額の計算
※分子の欠損金額は分母の所得金額が上限となります
繰戻し還付の留意点
- 還付所得事業年度(前期)から欠損事業年度(当期)まで連続して青色申告書を提出している必要があります。
- 還付請求は、原則として欠損事業年度の確定申告書の提出期限までに、その確定申告書の提出と同時に行う必要があります。
- 欠損金額が生じた場合に、繰越控除をするか、繰戻し還付を請求するかは任意です。
コロナ感染症の影響による特例
- 資本金が1億円以下の中小企業者だけではなく、資本金が1億円超10億円以下の法人についても繰戻し還付が認められます。
ただし、大規模法人(資本金の額が10億円を超える法人など)の100%子会社および100%グループ内の複数の大規模法人に発行済株式の全部を保有されている法人を除きます。 - 令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金額について適用されます(この場合の令和2年7月1日前に確定申告書を提出した法人の還付請求書の提出期限は、令和2年7月31日となります。
純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付
法人と同様に個人事業主でも、前年が黒字で納税した場合に今年が赤字なら、前年分の税金を取り戻すことができます。
純損失の金額とは
純損失の金額とは、事業所得、不動産所得、譲渡(総合)所得、山林所得の4つの所得の損失の金額のうち、損益の通算をしてもなお控除しきれない金額をいいます。
したがって、土地や建物の譲渡損失や株式の譲渡損失、先物取引による損失、雑所得の損失による金額があったとしても純損失の金額には含まれません。
純損失の金額の繰戻し還付の留意点
- 前年分とその年の所得税の申告で、青色申告書である確定申告書を提出する必要があります。
- 還付請求は、原則としてその年分の青色申告書である確定申告書の提出期限までに、その提出と同時に行う必要があります。
- 純損失の金額が生じた場合に、繰越控除をするか、繰戻し還付を請求するかは任意です。
- この規定は白色申告の方は適用できません。
- 復興特別所得税、住民税は還付されません。
純損失の金額に係る青色と白色の違い
青色申告
- 繰戻し還付・・・適用あり
- 繰越控除 ・・・適用あり(3年繰越)
白色申告
- 繰戻し還付・・・適用なし
- 繰越控除 ・・・純損失の金額のうち、災害損失のみ(3年繰越)
災害損失欠損金の繰戻し還付制度とは(法人)
災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度又は災害のあった日から同日以後6月を経過する日までの間に終了する中間期間において生じた災害損失欠損金額を、その災害欠損事業年度開始の日前1年(青色申告書を提出する法人である場合には、前2年)以内に開始した事業年度に繰り戻して法人税の還付を受けることができる制度です。
今般の新型コロナ感染症に関連して、外出自粛の要請等が行われたことにより、棚卸資産・固定資産などに損失が生じている場合や、感染症防止費用などを支出している場合には「災害により生じた損失の額」に該当します。
災害により生じた損失の額とは
「災害により生じた損失等」(以下、個人含む)とは、棚卸資産や固定資産に生じた被害(損失)に加え、その被害の拡大・発生を防止するために緊急に必要な措置を講ずるための費用が該当します。
災害により生じた損失の額の具体例
- 飲食業者等の食材の廃棄損
- 感染者が確認されたことにより廃棄処分した器具備品等の除却損
- 施設や備品などを消毒するために支出した費用
- 感染発生の防止のため、配備するマスク、消毒液、空気清浄機等の購入費用
- イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損
災害により生じた損失の額に該当しない例
- 客足が減少したことによる売上げ減少額
- 休業期間中に支払う人件費
- イベント等の中止により支払うキャンセル料、会場借上料、備品レンタル料
※上記のように、棚卸資産や固定資産に生じた被害の拡大・発生を防止するために直接要した費用とは言えないものについては、「災害により生じた損失等」に該当しません。
要点まとめ
- 災害損失欠損金の繰戻し還付は、青色申告の場合災害欠損事業年度開始の日前2年が適用対象となるため適用範囲が広くなります。
(仮決算による中間申告書も繰戻し還付の対象です) - 資金繰りにより選択がわかれますが、前期(前々期)より翌期の税率が高い場合は繰越控除を選択することにより税負担が軽減されます。
- コロナ感染症の影響で、多大な災害損失欠損金が発生し資金繰りが切迫している場合は、事業年度を変更し、繰戻し還付を受けることも可能です。
- 繰戻し還付制度は国税の制度です。国税の管轄である地方法人税は法人税とともに還付されますが、地方税(事業税、住民税など)は繰戻し還付ではなく、繰越控除の対象となります。
- 繰越控除は翌年の課税所得金額を下げる効果があります。繰戻し還付を選択した場合は翌年の税負担(所得税・復興特別所得税・住民税・国保含む)が重くなる場合があります。