『貸借対照表に計上されている金額(特に資産)には注意が必要です』このような内容の記載を書籍で見たことがあります。本当にそうでしょうか?実は、その書籍自体の目的があるゆえ記載されていることであり、計算目的により計上金額は正しいのです。
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企業買収の話
A)この業種の企業を買いたいのだが、どちらが良い企業かな?
<〇社と△社の貸借対照表>
勘定科目等 | 〇社 | △社 |
---|---|---|
現預金 | 500万円 | 500万円 |
建物・土地等 | 3,000万円 | 1,000万円 |
資産計(1) | 3,500万円 | 1,500万円 |
借入金 | ▲1,000万円 | ▲1,000万円 |
自己資本(2) | 2,500万円 | 500万円 |
自己資本比率(2)/(1) | 71.4% | 33.3% |
B)事業の将来性などの話は抜きにして、簿価純資産(貸借対照表の自己資本(2))を見ると〇社ですね。自己資本比率が70%超と高いです。ただし、資産の中に含み益や含み損、回収不能債権等がないか調べて時価純資産を算出する必要があります。△社が良い場合もありますよ。
A)含み益や含み損?毎期決算で時価評価しているんじゃないの?
B)時価評価しているのは金融商品(株式等)などで原則、客観的な市場価値があるものになります。あと、土地や建物などの固定資産は減損会計といって投資に失敗した場合など評価減のみ計算される処理もあります。減損会計などは中小企業では適用していない会社の方が多いです。
A)そうか、貸借対照表だけでは時価純資産は見えてこないのだね。どうすれば良いの?
B)そうですね。財務評価では机上での評価に加え、買収対象会社(現場)に行ってデューデリジェンス(リスク調査)をします。
A)結構大変な話になるね。
B)そうですね。社長は自社の方向性と買収企業がリンクできるか詰めの確認をお願いします。
資産は2種類ある
貸借対照表の資産には2種類あります。
- そのままの金額で換金できるもの
・・現預金、売掛金、貸付金など
- そのままの金額で換金できないもの
・・棚卸資産、建物、土地、株式など
特に、後者は評価額という金額で表示されるものがあり、建物は毎期の減価償却後の金額、株式は期末の市場価値金額です。棚卸資産は原則、取得原価のまま(売ったら利益がでる)、土地は買った時の金額(取得原価)のままです。
会計上の利益は損益計算書で計算される
商品を売れば、売上(収益)1個に対応する原価(費用)1個というように個別対応させ、経費(給料など)は売上と個別対応できないため、期間対応(給料であれば事業年度に対応)され、利益が計算されます。
建物などは対応期間が長い(例えば50年など)ので、耐用年数に応じた償却率で費用を損益計算書に配分していきます。この場合、貸借対照表に計上されている建物の金額は、未償却部分の残額(会計上の評価額)です。売却したときに入金されるお金を表示しているわけではありません。
企業の事業は継続するという前提(建物を50年で償却するなど)で、利益と現金の増減が結果的に一致するように計算されるのです。原則、事業継続を断ち切るような含み益・損は計算されません。
企業買収の話で時価純資産の話がありました。これは目的が企業の事業は継続する上での利益計算ではなく企業の事業を一旦停止し、企業全体が売却対象となるため清算(売却時価)価値を目的とするためです。