仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことそれ自体が、直ちに問題となるものではありません。しかし、見直しに当たっては、「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないよう注意が必要です。

独占禁止法等上の問題となる行為

自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となるおそれがあります。

以下に記載する行為類型のうち、独占禁止法上問題となるのは、行為者の地位が相手方に優越していること、また、免税事業者が今後の取引に与える影響等を懸念して、行為者による要請等を受け入れざるを得ないことが前提となります。
また、下請法と独占禁止法のいずれも適用可能な行為については、通常、下請法が適用されます。なお、建設業を営む者が業として請け負う建設工事の請負契約におけるものについては、下請法ではなく、建設業法が適用されます。

1.取引対価の引下げ

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、免税事業者との取引において、仕入税額控除できないことを理由に取引価格の引下げを要請し、再交渉において、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような(免税事業者も自らの仕入れに係る消費税を負担しています)価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。

2.商品・役務の成果物の受領拒否等

取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、仕入先から商品を購入する契約をした後において、仕入先がインボイス発行事業者でないことを理由に商品の受領を拒否することは、優越的地位の濫用として問題となります。

3.協賛金等の負担の要請

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れる代わりに、取引の相手方に別途、協賛金、販売促進費等の名目で金銭の負担を要請することは、当該協賛金等の負担額及びその算出根拠等について、仕入先との間で明確になっておらず、仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合などには、優越的地位の濫用として問題となります。

4.購入・利用強制

取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れる代わりに、当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務の購入を要請することは、仕入先が事業遂行上必要としない商品・役務であり、又はその購入を希望していないときであったとしても、優越的地位の濫用として問題となります。

5.取引の停止

事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由ですが、取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。

6.登録事業者となるような慫慂等

課税事業者が、インボイスに対応するために取引先の免税事業者に対し、課税事業者になるよう要請すること自体は、独占禁止法上問題となるものではありませんが、それにとどまらず、課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがあります。

また、課税事業者となるに際し、例えば、消費税の適正な転嫁分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置く場合についても同様です。

※インボイス制度への対応に関するQ&Aについて(概要)Q7 参照

インボイス対応には事前準備が必要

簡易課税制度を適用している場合は、インボイス制度の実施後も、インボイスを保存しなくても仕入税額控除を行うことができますので、買手としての追加的な事務負担は生じず、仕入先との関係ではインボイス書類を留意する必要はありません。

簡易課税制度を適用していない場合(原則課税)も、取引への影響に配慮して経過措置が設けられており、免税事業者等からの仕入れについて、制度実施後3年間は消費税相当額の8割、その後の3年間は5割を仕入税額控除が可能とされています。この経過措置は免税事業者との価格交渉の際に考慮すべき内容となります。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日 仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日 仕入税額相当額の50%

したがって、インボイス制度が開始する前に取引先のインボイス登録状況を確認するとともに、取引先がインボイス登録事業者でない場合(免税事業者等)には、取引先との間で取引価格等について再交渉する必要が生じます。

上記、税額控除の経過措置を踏まえながら、取引先と十分に協議を行いましょう。仕入側の事業者の都合のみで低い価格を設定する等しないよう、注意が必要です。

あなたのミカタになる情報を発信!

関連記事

令和3年度税制改正~中小企業投資促進税制(特別償却又は法人税...

税務

適格請求書(インボイス)発行等に必要な記載事項の確認...

税務

適格請求書保存方式での消費税の税額計算~割戻し計算と積上げ計...

税務

インボイス制度~クレジットカード決済(ETC利用)の留意点...

税務

令和5年度税制改正~中小企業投資促進税制(特別償却又は税額控...

税務

適格請求書等保存方式の導入〜消費税率10%への引上げ(その3...

税務