上場株式等に係る配当所得等について、「所得税」と「個人住民税」の課税方式は必ず一致するものと一般的に解されてきましたが、平成29年度税制改正において、異なる課税方式を選択できることが明確化されました。

課税方式の見直しの内容

上場株式等の配当所得については、従前より、申告不要制度・申告分離課税・総合課税の選択について納税者が任意に選択できましたが、所得税と個人住民税で異なる課税方式を選択することも可能です。特定公社債等の利子所得および源泉徴収ありの特定口座内の上場株式等の譲渡所得等における申告不要制度と申告分離課税の選択においても、同様となります。

異なる課税方式の具体的な手続きは、個人住民税の納税通知書が送達される⽇までに、確定申告書とは別に、市⺠税・府⺠税申告書を提出することにより、所得税等と異なる課税⽅法(申告不要制度、※総合課税、申告分離課税)を選択することができます。

※総合課税は配当所得のみに適用されます。

各所得の課税方式について

所得区分 所得税の課税方式 住民税の課税方式 備考
譲渡所得※1 源泉徴収ありの特定口座 申告不要制度・申告分離課税から選択 申告不要制度・申告分離課税から選択 所得税と個人住民税で異なる課税方式が可能
上記以外 申告分離課税 申告分離課税
配当所得 大口株主に該当しない(上場株式等)場合 申告不要制度・申告分離課税・総合課税から選択 申告不要制度・申告分離課税・総合課税から選択 所得税と個人住民税で異なる課税方式が可能
未公開株式・大口株主(発行済株式の3%以上保有) 総合課税※2 総合課税
利子所得 申告不要制度・申告分離課税から選択 申告不要制度・申告分離課税から選択 所得税と個人住民税で異なる課税方式が可能

※1取引頻度等により雑所得または事業所得になる場合を含む。

※2少額配当(年1回配当の場合1銘柄10万円以下)に該当する場合は、所得税のみ申告不要制度を選択可

課税方式の選択と税・社会保険料負担への影響

所得税と個人住民税で異なる課税方式を選択することが納税者のメリットとなるケースは主に2つあります。

①上場株式等の配当所得につき総合課税を選択することが有利であった者において、「上場株式等の配当所得について所得税は総合課税、個人住民税は申告不要制度(または申告分離課税)」を選択することで個人住民税の税負担を抑えられます。

上場株式等の配当所得につき、総合課税を適用した場合の個人住民税の税率は10%になります。商品によっては配当控除を適用することができるが、配当控除による税額控除額は最大でも配当所得の2.8%であり、配当所得を考慮後の個人住民税の税率は最小でも7.2%(最大は配当控除が適用されない場合の10%)になります。

これに対して、申告不要制度または申告分離課税における個人住民税の税率は5%であるため、個人住民税においては総合課税を選択するよりも申告不要制度(または申告分離課税)を選択した方が常に(最小で2.2%、最大では5%)実質的な税率が低くります。

②自営業者や年金生活者等が損益通算や繰越控除を利用する場合において、個人住民税は申告不要を選択することで社会保障制度への影響を回避できます

なお、個人住民税においても、申告した上場株式等の配当所得等は、扶養控除や配偶者控除の適⽤、非課税判定や国⺠健康保険料算定等の基準となる総所得⾦額等や合計所得⾦額に含まれますので留意が必要です。

この記事は平成29年7月25日に発行されたものです。

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