個人事業を廃業・法人成りに伴い個人事業を廃止する場合には廃止した年分に係る個人事業税の課税見込額を当該年分の必要経費に算入することができます。今回は個人事業税の概要からこの特例まで見ていきます。

個人事業税とは

個人が営む事業(注1)のうち、法定業種(70業種)に対してかかる税金となり、ほとんどの業種が該当します。

法定業種は第1種事業から第3種事業まであります。第2種事業(畜産業・水産業・薪炭製造業)の税率は4%で、第3種事業のうち以下の業種の税率は3%です。

  • あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業
  • 装蹄師業

第1種事業と上記以外の第3種事業の税率は5%で、70業種のうちほとんどの業種を占めます。

(注1)70業種のうち、事業的規模と認められるものに課税されます。例えば不動産貸付業を営んでいても事業的規模以外に該当すれば課税対象とはなりません。

個人事業税の計算過程

事業の収入金額から必要経費を差し引いた所得金額(下記①)から調整(下記②~⑤)を加減して事業税の課税所得を計算します。 計算した課税所得を課税標準として税率を乗じ税額が算出されます。

個人事業税の課税所得計算式

①事業所得又は(及び)不動産所得 + ②所得税の事業専従者給与(控除)額 - ③個人事業税の事業専従者給与(控除)額 + ④青色申告特別控除額 - ⑤各種控除額

  1. 前年の1月1日から12月31日までの1年間の事業から生じた所得で、原則として、所得税における事業所得及び不動産所得の計算と同じです。
  2. 個人事業税を計算するにあたり、所得税の事業専従者給与(控除)額を一旦加算します。
  3. 個人事業税の事業専従者給与(控除)額を控除します。ほぼ、所得税と同額ですが、所得税で配偶者控除等を選択したために事業専従者給与の必要経費算入を認められない場合において、所得税の確定申告書で「事業税に関する事項」欄に事業に従事している旨の申告があり、専従者の要件に該当するときは、事業税の事業専従者と認めた給与額を減算します。
  4. 所得税の青色申告特別控除額は、個人事業税では適用がありませんので加算します。
  5. 各種控除額は以下のとおりです。
    • 欠損金(損失・被災事業用資産の損失)の繰越控除
      青色申告者で、事業の所得が赤字(損失)となったときは、翌年以降3年間、繰越控除ができます。
    • 被災事業用資産の損失の繰越控除
      白色申告者で、震災、風水害、火災などによって生じた事業用資産の損失の金額があるときは、翌年以降3年間、繰越控除ができます。
    • 事業用資産の譲渡損失(繰越)控除
      直接事業の用に供する資産(機械、装置、車両等。ただし、土地、家屋等を除く。)を譲渡したために生じた損失額については、事業の所得の計算上、控除することができます。青色申告の場合、翌年以降3年間、繰越控除ができます。
    • 事業主控除額
      年間 290万円
      ただし、事業を行った期間が1年に満たない場合は、月割額(千円未満の端数は千円単位で切上)となります。(月数は、暦に従い計算し、1月に満たない端数を生じたときは、1月とします)

個人事業税の減免

以下に該当する場合には、納期限までに個人事業税減免申請書にて申請することにより税額の減免が受けられます。(リンクは東京都のものです。納税地の自治体の制度をご確認ください)

個人事業税は必要経費算入できる

原則

個人事業税は事業を行うにあたって、公共のサービスを受けたことに対して支払う税金という性質があり、賦課課税方式(各自治体が税額を計算して通知する)であるため、年2回の納期の開始の日又は実際に支払った日の属する年分の必要経費に算入することができます。(所得税基本通達37-6(3))

したがって、個人事業税が賦課通知されるのは申告対象年度の翌年となるため、例えば令和3年分の申告を行った場合には令和4年分の必要経費に算入できます。

特例

事業税を課税される事業を営む者が当該事業を廃止した場合における当該廃止した年分の所得につき課税される所得税については、上記(37-6)にかかわらず、当該事業税の課税見込額を当該年分の当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができます。(所得税基本通達37-7)

事業税の課税見込額は以下のとおり計算します。

個人事業税の課税見込額の控除を求める計算式
A・・・事業税の課税見込額を控除する前の当該年分の当該事業に係る所得の金額
B・・・事業税の課税標準の計算上Aの金額に加算し又は減算する金額
R・・・事業税の税率

(設例)
本年12月をもって個人事業(飲食店業)を廃止し、法人成りする。課税見込額を算出するための各種情報は以下のとおりです。

  • 事業所得の所得金額500万円(課税見込額算入前)
  • 青色事業専従者給与120万円(必要経費に算入済)
  • 青色申告特別控除額 65万円
  • 飲食店業(第1種事業:税率5%)
  • 欠損金の繰越控除等や事業用資産の譲渡損失はない
  • 事業をおこなった月数は12ヵ月であり事業主控除は290万円
課税見込額の算出:(500万円+120万円-120万円+65万円-290万円)× 0.05(5%) ÷ 1.05(1+5%)= 130,952円

まとめ

上記の設例により計算した課税見込額を未払金計上し、廃業年分の事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができます。

なお、この特例を受けていない場合は、事業を廃止した後において、その年以降の年の必要経費とされるべき金額が生じたとき、その金額は、廃止をした年分(引ききれないときはその前年分)の必要経費に算入できます。(所得税法第63条)

しかし、この場合には、必要経費とされるべき金額が生じた日の翌日から2月以内に更正の請求をする必要があります。(所得税法第152条)

特例(所得税基本通達37-7)を適用しない場合は、なかなか面倒なことになります。個人事業を廃業する場合は特に漏れる可能性がありますから、申告時に忘れず適用しておきたいところです。

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