退職所得課税ついて令和3年度税制改正で短期退職手当等が創設されました。この改正により、従業員の退職所得にも一定の条件下で所得計算に制限が生じることになります。

退職所得等の金額の計算

所得税に係る退職所得の金額については、原則、退職手当等の収入金額から、勤続年数に応じて計算した退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額とされています。

退職所得の金額の計算方法
(その年中の退職手当等の収入金額 - 退職所得控除額(※1))× 1/2(※2) = 退職所得の金額
※1 退職所得控除額は以下の計算によります
勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
(勤続年数2年未満は80万円)
20年超 800万円+{70万円×(勤続年数-20年)}
※勤続年数は1年未満の端数切上げ

※障害者となったことに起因して退職した場合は上記により計算した金額に100万円を加算します

※2 勤続年数が5年以下の役員等の退職手当等(特定役員退職手当等)については、「1/2」課税が不適用となります。

令和3年度税制改正の内容

短期退職手当等※3に係る退職所得の金額については、令和4年分以後の所得税から、退職所得控除額の控除後の残額が300万円を超える部分について1/2課税が不適用となります。

※3 短期退職手当等とは、退職手当等のうち、退職手当等の支払をする者から短期勤続年数(勤続年数のうち、役員等以外の者としての勤続年数が5年以下であるものをいいます)に対応する退職手当等として支払いを受けるもので、特定役員退職手当等に該当しないものをいいます。

短期退職手当等の説明が長くて解り難いですね。
つまり、「勤続年数が5年以下(従業員として受ける退職手当等に対応する)である従業員がうける退職手当等」は短期退職手当等に該当します。

短期退職手当等に係る退職所得の金額

短期退職手当等に係る収入金額から退職所得控除額を控除した残額300万円以下か否かで短期退職手当等に係る退職所得の金額を求める計算区分が異なります。

判定式:退職所得控除額を控除した残額 = その年中の退職手当等の収入金額 - 退職所得控除額

1.退職所得控除額の控除後の残額が300万円以下の場合(収入金額-退職所得控除額≦300万円)

(その年中の退職手当等の収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額

2.退職所得控除額の控除後の残額が300万円超の場合(収入金額-退職所得控除額>300万円)

150万円※4+{その年中の退職手当等の収入金額 -(300万円+退職所得控除額)}※5= 退職所得の金額

※4 300万円以下の退職所得の金額
(150万円=300万円×1/2)

※5 300万円を超える部分の退職所得の金額
(退職所得控除をここで適用します)

<支給額が1,000万円で勤続年数5年の場合>
150万円+{1,000万円-(300万円+200万円)}=650万円
200万円=40万円×勤続年数5年

退職所得の源泉徴収事務

退職所得は、他の所得と分離して課税(分離課税)することとされ、退職手当等の支払をする者が支払時に源泉徴収事務をおこなうことにより課税関係が完結することから重要な手続きとなります。源泉徴収事務は以下の手順で進めていきます。

源泉徴収事務の流れ

退職所得の受給に関する申告書の提出を受ける
退職所得の支払を受ける人(退職者)から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けます。

上記申告書が提出されていない場合には、退職手当等の収入金額20.42%(住民税は10%)を乗じた税額を源泉徴収することになりますので注意してください。
例えば、退職手当等の収入金額が1,000万円の場合には、2,042,000円が源泉徴収され、さらに、住民税は100万円が特別徴収されることになり、多額の税金を納付することになってしまいます。

なお、この申告書は税務署長又は市区町村から提出を求められるまでの間は、提出を受けた源泉徴収義務者・特別徴収義務者が保存することとされています。
課税標準及び源泉徴収税額の計算
「退職所得の受給に関する申告書」に記載されている内容を参照して、原則、退職手当等の収入金額から、勤続年数に応じて計算した退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額を求め、これを課税標準(以下、同じ)とし、以下のように源泉徴収税額(所得税)を計算します。

例:令和3年9月10日に従業員に退職金を支給(退職手当等支給額が1,000万円で勤続年数10年の場合)
(1,000万円-400万円)×1/2=300万円

400万円=40万円×勤続年数10年
千円未満の端数切捨て

300万円が課税標準となりますので、この金額に「退職所得の源泉徴収税額の速算表(令和3年分)」をあてはめて計算します。
(300万円×10%-97,500円)×102.1%=206,752.5円 ⇒ 206.752円(1円未満の端数切捨て)
住民税特別徴収税額の計算
同様の課税標準を使用して住民税を計算します(以下の計算は大阪市の場合となります)

税額(10%)=市民税額(A)+府民税額(B)
課税標準×6%=市民税額(A)
課税標準×4%=府民税額(B)
※税額はそれぞれ100円未満の端数切捨てのうえ合算します

300万円×6%=18万円(A)
300万円×4%=12万円(B)
18万円+12万円=30万円(特別徴収税額)
徴収税額の納付
退職手当等を支払う際に源泉徴収税額及び特別徴収税額を控除し、各徴収税額の納付をおこないます。

源泉所得税(毎月納付)と特別徴収税額は徴収した月の翌月10日までに納付します。
なお、源泉所得税については納期特例がありますので、適用を受けている支払者は以下の納付となります。
・1/1~6/30徴収分⇒7/10迄に納付
・7/1~12/31徴収分⇒翌年1/20迄に納付

適用時期

短期退職手当等に係る改正は令和4年分以後の所得税から適用され、源泉徴収事務については、令和4年1月1日以後に支払うべき退職所得等について適用されます。

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